絵柄に秘められた物語について

知識

食器に描かれている絵柄(モチーフ)には、メーカーやデザイナーの想いが込められていて、調べてみるといろいろな発見をすることがあります。

たとえば1780年ごろにイギリスのミントンが考案した「ウィロウ パターン」。

Willowとは柳を意味し、中国風景を模写したものです。そういわれて見てみると、アジアンチックなデザインが描かれており、オリエンタルな雰囲気が全面に出ています。

このモチーフの背景には悲しい物語が隠されています。

昔々、中国の田舎の役人が、妻と娘と多くの使用人と何不自由なく暮らしていました。彼はもっと高い位に昇進したいと、娘を高い身分の役人と結婚させようと考えていました。

ところがその娘が、使用人の一人の若者と恋に落ちます。怒った父親は娘を楼閣の中に閉じ込めて監禁するのです。

恋人であった若者が娘を助け小舟で逃げ出し、しばらくは小島でひっそりと暮らすことができたのですが、父親に見つけられてしまいます。家の中に閉じこもった二人を、父親は家ごと焼き殺してしまいます。愛し合った二人は最後に鳥となり天に昇っていく、という悲恋物語です。

その悲しい物語を描いたモチーフであるにも関わらず、美しい色合いとデザインから、多くの人に愛されてきました。

デザインはその後、他の窯もこぞって描くようになり、藍色ににた深い青色とオリエンタルな雰囲気があいまって、日本のメーカーでも作られるようになります。

日本で作られたのは1951年と1900年代に入ってからなのですが、何作品か前の明治時代を背景にしたNHKの朝の連続ドラマでも使用されていました。

そのメーカーのウィロウパターンを使うのは、時代考証的にはちょっとへんてこりんではあるのですが、その時代に実在したヨーロッパの窯のウィロウパターンとなると、アンティーク中のアンティーク。あったとしても、相当価値が高いため、ドラマでなんて怖すぎて使えないんじゃないでしょうか。

そのほか、ストーリーがある絵柄として代表的なのはデンマークのロイヤルコペンハーゲン窯の「フローラダニカ」。

デンマーク王国の華という意味をもつこのシリーズは、デンマークのすべての植物を2600点の食器に描き、デンマークとつながりのあったロシアの女帝エカテリーナ二世へと献上するという、壮大な試みがなされたシリーズです。

1802点目でエカテリーナ二世が崩御したため中断しましたが、1802点の完成品はデンマークで大切に保管されています。

これらのデザインはロイヤルコペンハーゲン窯を代表するシリーズとなり、今でも製造されています。

そのほかにもフランスのナポレオン三世の妃ユジュニーが愛したスミレ、マリーアントワネットが好んだ矢車草の器など、歴史上の人物と深い関わりのあるシリーズは多数存在します。

こうやってシリーズをたどっていくと、食器というのはそれぞれの国の歴史、伝統、文化、時代の人々の営みが色濃く映し出されており、当時を知る上での資料としての意味合いをもつものだということがよくわかります。

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