ヨーロッパを魅了した日本と中国のモチーフ
ヨーロッパ陶磁器の歴史をたどっていくと、そのルーツが中国や日本にあることはご存じの方もいらっしゃると思います。彼らにとっては日本の焼き物はお手本の一つでもありました。とりわけ佐賀県有田町の伊万里焼で人気があったのが、境田柿右衛門の焼き物でした。
地肌が乳白色の「濁し手」と呼ばれる素地に、赤・黄・緑・金などの上絵の具を施した「錦手」といわれる見事な絵付け。赤が突出して素晴らしく、描かれた柿の色が美しく発色したため、藩主であった鍋島公から「柿右衛門」の名を賜ったといわれています。
この絶妙なバランスで作り出された柿右衛門の作品が、遠いヨーロッパの人々を魅了し、それをなんとか再現させようとしたことが、ヨーロッパ陶磁器の原点にはあります。
今であればデザイン料だ著作権だと訴えられそうですが、1600年代にはそのようなことももちろんなかったため、柿右衛門を模写したシリーズがたくさん作られました。
ところが、そこに描かれている植物や動物は、ヨーロッパの職人たちが目にしたこともないものもたくさんあり、虎が猫のように、象は鼻が短いなど、なんともコケティッシュな感じの絵付けとなったのが初期で、そのデザインはそのまま今でも描かれています。
その初期の模写の時代を経て、ヨーロッパ独自のアジアを意識したオリジナルのパターンが作られるようになります。
たとえば芙容手。お皿などの周辺をきれいに8等分し、その中に唐花を描いたもので、芙容の華が咲いたような文様となっており、その美しさはヨーロッパの人々を魅了しました。このデザインはマイセン、セーブル、ウィーン(のちのアウガルテン)の窯で用いられるようになっています。
またハンガリーのヘレンド窯。この窯は日本でも非常に人気の高い窯の一つで、現在でもユニークなシリーズやアイテムの開発に積極的に取り組んでいるブランドです。
このヘレンド窯の代表的なシリーズの一つである「インドの華」は100年以上前にデザインされたものですが、いまなお人気のあるシリーズです。
余談ですがそのインドの華、シンプルになったシリーズが存在します。
アポニーと呼ばれるヘレンドで大人気のシリーズです。そのシリーズが誕生した裏話が意外なものなのです。
アポニー伯爵が急な入用でインドの華を所望したのですが、すべてを描きあげるには時間が足りない。であれば、デザインをシンプルにしてしまえ、といって生まれたのがアポニーシリーズです。
意外なことで作られましたが、華美過ぎずかえってシンプルになったことで日常使いで愛されるシリーズとなりました。
そのほか、イギリスでも1880年にロイヤルクラウンダービー窯から伊万里を模写したシリーズが発売されます。その名もジャパン。このシリーズは世界中で愛されるようになり、現在も多くの愛好家がいるといわれています。
遠き東方の国から海を渡った陶磁器は、ヨーロッパの職人の手によって独自のデザインと形を変えました。そのデザインの中には、ギリシャ・ローマ風であったり、ロココ調であったりと、その時々の文化スタイルが織り交ぜられています。
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